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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)2324号 判決 1983年9月30日

控訴人 有限会社山崎フィッシュランド

右代表者代表取締役 安東恒雄

右訴訟代理人弁護士 前田知克

被控訴人 山崎町

右代表者町長 谷口巖

右訴訟代理人弁護士 中川正夫

被控訴人 日本道路公団

右代表者総裁 高橋国一郎

右訴訟代理人弁護士 堀弘二

同 太田忠義

同 増井俊雄

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは各自控訴人に対し、金八一六万円及びうち金四三五万二〇〇〇円に対する、被控訴人山崎町は昭和五一年七月二日から、被控訴人日本道路公団(以下「被控訴人公団」という。)は同年同月三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被控訴人ら

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決二枚目裏五行目の「被告公団は」の次に「日本道路」を付加する。

2  同三枚目裏四行目の「昭和五一年」から七行目の終りまでを「昭和五三年一〇月までの六〇か月間で合計八一六万円の損害を被ったことになる。」と改め、同一〇行目の「閉そくし」の次に「、同店舗の存在が見えないようにし」を付加する。

3  同四枚目裏七行目の初めから一一行目の終りまでを「よって、控訴人は被控訴人らに対し、各自金八一六万円及びうち金四三五万二〇〇〇円に対するそれぞれ本訴状送達の翌日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と改める。

4  原判決六枚目裏九行目の「さらに」の次に「、本件自動車道の路線発表があったのは昭和四二年二月であり、また、」を、同末行目の「申請をし」の次に「たうえ同年八月一日に営業を開始し」を各付加する。

5  同七枚目表末行目の「本件自動車」の次に「道」を付加し、同八枚目表末行目、一〇枚目裏五行目の「井戸枯れ」をいずれも「井戸涸れ」と訂正する。

6  同九枚目表九行目の「決定後、」の次に「それを十分承知のうえで」を付加する。

二  控訴人の当審における主張

1  控訴人が被った損害額の計算方法について

控訴人が本訴において請求している損害は、得べかりし利益の喪失による損害であるが、その損害額の計算方法については原審で主張したほかに次のような方法があり、これの方がより正確である。

(一) 控訴人の釣堀料金は昭和四六年八月一日から大人一人一時間二五〇円、昭和四七年八月一四日から同三〇〇円、昭和四九年一月一日から同五〇〇円、昭和五〇年一月一日から同六〇〇円、昭和五三年一月一日から同八〇〇円と順次改定されてきた。

ところで、控訴人は、昭和四八年一一月から翌四九年三月の途中まで休業したので、同四八、四九の両年度は各一〇か月しか営業していないが、同四八年度の釣堀の売上は金二七七万〇一〇九円であり、大人一人一時間三〇〇円で一時間単位での大人の人数に換算すれば、年間の時と人数の積(以下「人時」という。)は九二三三人時、一か月平均九二三人時である。

そして、右昭和四八年度を含め同五六年度まで同様の計算をすると本判決別紙一覧表(二)記載のとおりになる(売上価額の詳細は原判決別紙損害額の計算書末尾の収支明細表及び本判決別紙一覧表(一)記載のとおり。後記仕入額についても同様)。

(二) 前記のように昭和四八年の一〇か月の人時は九二三三、一か月平均人時は九二三であるから、一二か月に換算すれば一万一〇七六人時となる。一一月、一二月の客数の少ないことを考慮するとしても、昭和四八年の水準では年間一万人時の客はあったはずである。

よって、昭和四九年度以降も年間一万人時の客があったものとして、本判決別紙一覧表(二)の人時欄記載の数値に基づく昭和四九年度から同五六年までの売上減収額を計算すると本判決別紙一覧表(三)記載のとおりになる。

(三) 他方、売上をあげるための必要経費のうち、人件費、光熱費に変動はないが、原材料たる魚、えさの仕入額には変動があり、昭和四八年度から同五六年度の仕入額及びその売上額に対する比率は本判決別紙一覧表(四)記載のとおりである。

右昭和四八年から同五六年までの期間を通じ(ただし、同五三年と同五五年は数値が異常であるから除く。)、仕入額の売上額に対する比率の平均は四〇・六パーセントとなる。

そして、前記昭和四九年から同五六年までの売上減収額合計二九八九万二二〇〇円のうち四〇・六パーセントを原価とみて、右二九八九万二二〇〇円からこれを控除すると、残額は一七七五万五九六六円となるが、これが右期間中に控訴人の失った得べかりし純益すなわち損害ということになる。

(四) そうすると、控訴人は被控訴人らの行為によって、現在まで一七〇〇万円以上にのぼる損害を被っていることになり、原審で主張した損害の期間である昭和四八年一一月以降同五三年一〇月までの損害額も計算上は一七〇〇万円を超えるが、本訴においてはそのうち金八一六万円の支払を求めるものである。

2  予備的主張について

被控訴人らは国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条による損害賠償責任があるので、控訴人は被控訴人らに対し、予備的に右法条による損害賠償を求める。

すなわち、被控訴人らは、いずれも公共団体であるが、前記のように本件自動車道の設置に伴い本件町道が付け替えられたため、控訴人店舗に通ずる道が閉そくされ、遠回りしなければならなくなったこと及び控訴人店舗の存在が見えなくなったこと等の結果を生じていることは、被控訴人らの共同行為による道路の設置方法の瑕疵によるものであることが明らかであるから、被控訴人らは、国賠法二条に基づき、右設置方法の瑕疵によって控訴人に生じた損害を賠償する責任がある。

三  控訴人の当審における主張に対する被控訴人らの認否

1  被控訴人山崎町

(一) 控訴人の当審における主張1の主張は争う。

(二) 同2の事実中、本件自動車道の設置に瑕疵があることは否認する。

2  被控訴人公団

(一) 控訴人の当審における主張1の主張は争う。

(二) 同2の事実中、本件自動車道が公の営造物に該当することは認めるが、控訴人主張のごとき瑕疵があること及びその主張の損害は否認する。

国賠法二条にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいうのであるが、本件自動車道には構造上の問題は全くなく、本件町道のボックスの変更も右町道の管理者である被控訴人山崎町の申入れに従い、現在位置で取り付けを行ったものであってなんらの瑕疵もない。

第三証拠関係《省略》

理由

第一主位的主張について

一  控訴人は、被控訴人公団は控訴人の店舗の直前に本件自動車道を設置し、従来同店舗に通じていた本件町道を閉そくし、同店舗の存在が見えないようにし、また、被控訴人山崎町及び同公団は協議のうえ、従来控訴人の店舗に通じていた本件町道を変更し、いずれも同店舗の顧客の来店を妨げ、その売上を激減させた旨主張するので判断する。

1  まず、控訴人が昭和四六年八月から肩書地において食堂及び釣堀を業として営んでいたことは被控訴人山崎町との間においては争いがなく、被控訴人公団との間においては《証拠省略》によってこれを認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

2(一)  そして、被控訴人公団が日本道路公団法によって設立された法人であって有料道路の新設、管理をその業の一つとしていること、被控訴人山崎町がその行政区画内の町道の管理責任者であること、被控訴人公団が昭和四七年控訴人の店舗所在地域において本件自動車道の具体的工事に着手し、その後同地域部分を開通させたこと(以下「本件自動車道の設置」という。)、本件自動車道が設置されるまでは、原判決別紙図面のとおり本件町道は控訴人の店舗(食堂・釣堀)前まで南下し、同店舗前で東折していたところ、本件自動車道が右町道を横切ることになり、同町道は本件自動車道の北側直前で東折して、従来より約五〇メートル東の地点において本件自動車道内に設けられたカルバート・ボックス(道路の下に埋設されたコンクリート製暗渠、以下単に「ボックス」という。)で本件自動車道と立体交差して南下するように変更されたこと(以下「本件町道の付替え」という。)は当事者間に争いがない。

(二) 前記当事者間に争いのない事実によれば、被控訴人公団が控訴人の店舗の直前に本件自動車道を設置したこと、右設置までは本件町道は右店舗に通じていたが、右設置に伴う本件町道の付替えにより、右店舗に通じていた同町道は右店舗直前で一部閉そくされたことは明らかである。

3(一)  ところで、前記2の(一)の当事者間に争いのない事実に、《証拠省略》を合せ考えると、本件自動車道設置前においては、本件町道を北方から南方に進行する通行人は、同町道の東折点南側に控訴人の店舗の存在することは数百メートル手前からでも認められたけれども、本件自動車道の設置後は、同自動車道の土手、石垣、フェンス等に遮られて認められなくなったことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(二) しかしながら、前記1の認定事実、同2の(一)の当事者間に争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、

(1) 被控訴人公団においては、昭和四五年ころに本件自動車道の詳細設計図面を作成しており、右図面によれば、従前の本件町道(中ノ町通り、通称鹿沢通り)をそのまま存置する形、すなわち同町道が本件自動車道と交差する個所にボックスを設置して立体交差とする計画になっていたが、昭和四六年六月以降各部落単位に地元の県、被控訴人山崎町、地権者、地区部落総代、副総代、隣保長等との設計協議をした(なお、控訴人代表者にも右協議会の開催通知はあったが、同人は欠席した。)ところ、地元民の大方の意向は、南行の途中で東折している本件町道よりは、むしろ南行直進しているトオリ町通りを拡幅したうえ、トオリ町通りが本件自動車道と交差する個所にボックスを設置して立体交差とし、本件町道は本件自動車道の北側直前で東折してトオリ町通りに合流するようにしてもらいたいというものであり、被控訴人山崎町においても同町の都市計画事業との関連もあってこの案を採用する旨を決定し、被控訴人公団にその旨申し入れた。なお、同年九月二四日ころ地元住民の一部(ただし、控訴人代表者はこれに参加していなかった。)からトオリ町通りのほか、本件町道にもボックスを増設してほしい旨の要望があったので、被控訴人山崎町においても被控訴人公団に右要望を伝えたが、同公団において検討の結果、五〇メートル以内に二つもボックスを設置することは経費及び構造上困難であるとしてこれを断る旨の回答をなし、同山崎町においてもこれを了承したため、右要望は実現しなかった。その結果、前記被控訴人山崎町の意向どおり本件自動車道の設置に伴う本件町道の付替えが行われた(被控訴人山崎町が本件町道の付替えについて同公団と協議したことは同山崎町との間においては当事者間に争いがない。)ものであること、

(2) 他方、控訴人代表者はもともと鶏肉販売業、控訴人専務取締役河野美代士は木工業をそれぞれ本業としていたが、いずれも本件町道が西鹿沢部落内を南行し段部落に入るところで東折している屈折点の南側付近に土地を所有していたところ、両名は昭和四六年三、四月ころから、控訴人会社を設立して釣堀と食堂を営むことを計画し、同年七月一六日同社を設立して、右各所有土地に釣堀用釣池と食堂の店舗を建築し、同年八月一日から同店舗で釣堀と食堂の営業を開始したこと、

(3) そして、昭和四七年夏過ぎころから本件自動車道の建設工事が着手され、右工事従事者らも右釣堀や食堂の客として来店したため、右売上は増大したこと、

(4) また、控訴人の右店舗と本件自動車道との間には従前から西へ通じる幅員約二尺の里道が存在しており、被控訴人公団においては同山崎町と協議のうえ右里道を幅員二メートルの道路に拡幅する予定であったが、昭和四八年秋ころ河野美代士は被控訴人公団山崎工事事務所の穂坂昌平工事長に右予定幅員を四メートルにするよう申し入れ、折衝の結果、同公団も右申入れを容れ、右道路を四メートルに拡幅したこと、

(5) なお、山崎都市計画土地区画整理事業が完成すると、右道路は西方で幅員二四メートルの都市計画道路に通ずることになり、控訴人の前記店舗の立地条件は現在よりも相当良くなる状況にあること、

(6) ところで、昭和四六年二月一八日には本件自動車道の起工式が行われ、河野美代士においても遅くとも控訴人の営業開始までには本件自動車道がその店舗の直前を横切ることを知っており、また、控訴人代表者においても、前記のように本件自動車道と本件町道との交差位置すなわちボックスの設置場所について昭和四六年六月以降各部落単位で設計協議が持たれていることを知っており、遅くとも控訴人の前記営業開始までには、ボックスが従前の本件町道(中ノ町通り)と本件自動車道の交差位置に設置されない可能性についても十分これを予想しえたこと、

(7) 河野美代士は昭和四九年春ころ被控訴人山崎町に対し、前記(一)認定の事実について苦情を申し入れ、同被控訴人から被控訴人公団にその旨連絡した結果、同被控訴人において、本件町道が北方の県道山崎・南光線と交差する地点及び本件自動車道の直前で東折する地点に控訴人会社の業種、店舗名及びその所在場所を示す大看板三基を設置したこと、

が認められ(る。)《証拠判断省略》

(三) そして、前記(二)に認定の事実関係に、本件自動車道のごとき公道は住民ないし一般公衆の通行という公共的目的のために設置される公共用物であることを合せ考えると、仮に、本件自動車道の設置により、控訴人店舗の存在が北方からの通行人には認められなくなったために顧客の来店が妨げられ売上が減少したとしても、右損害は社会生活上受忍すべき範囲内のものであると解するのが相当というべきである。

よって、被控訴人公団が控訴人店舗の直前に本件自動車道を設置し、同店舗の存在を見えなくしたことを理由とする控訴人の不法行為の主張は失当である。

4(一)  更に、本件町道の閉そくないし変更による不法行為の成否についてみてみるに、本件町道が控訴人主張のように付替えられたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、右町道が一部閉そくされたことは前記認定のとおりである。

(二) ところで、公道は、管理者が公道として住民ないし一般公衆の通行の用に供したため、住民ないし一般公衆はその行政措置の反射的効果として、これを自由に通行できるのであるが、その使用は公法関係におけるいわゆる一般使用にあたるものであり、個個の住民ないし一般公衆はその利用ないし本件控訴人のごとくその営業店舗が公道に接していたことによる営業利益について特定の権利又は法律上の利益を有するものではなく、管理者において既設の公道を廃止又は変更する等した場合、それが個個の住民ないし一般公衆の利害に直接間接に影響を及ぼすことがあるとしても、個個の住民ないし一般公衆はこれに対し自己の権利、利益の侵害を主張して損害の賠償を請求することはできないものと解するのが相当である。

よって、仮に本件町道の閉そくないし付替えによって控訴人店舗の顧客の来店が妨げられ売上が減少したとしても、控訴人に対する不法行為が成立するとはいえず、控訴人の本件町道の閉そくないし変更を理由とする不法行為の主張も失当といわなければならない。

二  してみれば、控訴人の被控訴人らに対する本訴主位的主張は、その余の判断に及ぶまでもなく失当である。

第二予備的主張について

一  本件自動車道が国賠法二条にいう公の営造物に該当することは、被控訴人公団との間においては争いがなく、被控訴人山崎町においてはこれを明らかに争わず自白したとみなされるところである。

二  ところで、控訴人は、その主張のごとき理由で本件自動車道には国賠法二条にいう設置の瑕疵がある旨主張するところ、同法同条にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうと解されるところ、控訴人主張のごとき事実はいずれも同法同条にいう営造物の設置の瑕疵にあたらないことが明らかであり、他に本件自動車道に同法同条にいう設置の瑕疵の存在を認めるに足りる証拠もないから、控訴人の右主張は失当である。

そうすると、本件自動車道に国賠法二条にいう設置の瑕疵が存在することを前提とする控訴人の予備的主張もまた、その余の判断を待つまでもなくその理由がないものといわなければならない。

第三結論

以上の次第であってみれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によってこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高田政彦 古川正孝 裁判長裁判官島﨑三郎は退官につき署名捺印することができない。裁判官 高田政彦)

<以下省略>

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